アメリカ大学院で一年間授業を受けた所感

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 私が在籍するUCSB (University of California, Santa Barbara)はクォーター制を採用しています。一年間を四つに分けて、Fall quarterに始まり、winter、spring、summerと続きます。一つのクォーターの授業期間は約二か月半です。Summer quarterに授業を選択することは必須ではなく、特に授業を取らない人は休みとなります。私のようなResearch Assistantとして採用された人はSummer quarterに授業料が支払われないので、この期間中は授業を取らずに研究に専念します。ほかにセメスター制のアメリカ大学が多く存在しますが、私が経験していない制度なのでここでは割愛します。

 クォーター制では授業の進度が非常に早く、授業開始後の一か月前後に中間試験、さらにその約一か月後に期末試験が行われる形式が多かったです。授業自体は週二、三回、二時間前後の長さで行われますが、カバーする範囲は専門書一冊や数冊の分量なので授業中は要点のみが伝えられ、ほかに宿題、office hour、TA sessionを通して学習していき、感覚として授業とそれ以外の学習時間の比例は1:9だと思います。専攻で必修に指定されている授業はさらにB以上の評価が必要などの要件が課され、これを満たさないとQualification試験に進めないなどの制限があります。

 一年間の中で私が受けた授業はおおよそ以下に示す三つの形式で行われていました。最初の学期は三つの授業を取って、とても研究と両立できなかったので、次の学期からは二つの授業を取るようにしていました。

 

宿題/試験:宿題 (Homework, Problem set)の比重は20%-30%、中間試験(midterm)と期末試験(Final)が残りの比重を占め、期末試験のほうが中間試験よりも比重が高いことがしばしばです。中間試験は授業開始のおよそ1か月後にあり、期末試験は学期の終わりに(授業開始から二か月+10日ほど)にやってきます。一つのコースは週二回授業で、週一回宿題が出されることもあれば、二週間に一回重めの宿題が出されることもあります。宿題は授業でカバーしきれなかった部分を学習させるように構成され、先生が出題するオリジナル問題は非常に難解の場合も多く、office hourやTA sessionで質問しながら宿題を解いていくことが多かったです。Take home finalという宿題のような期末試験が課されることもあります。この場合の期末試験は教室で決められた時間で受ける試験よりも格段に難易度が上昇することが多いようです。

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実験は図に示すようなクリーンルームで行っていました

実験/レポート:実験は先生から出された課題を数人からなるグループ共同で完成させていくことになっていました。トレーニングラボでTAやラボマネージャーから指導を受けながら実験を進めていき、その結果と考察をレポートにまとめて行きました。提出する実験レポートは実際にジャーナルに投稿する論文形式で書かれることが要求されていました。大学時代の学生実験と異なるのは、一つの実験課題が5時間ほどで終わらせることができていたのに対して、こちらで一つの実験課題を完成するまでに数十時間が必要でした。朝から晩までグループと実験室にこもって実験しながらディスカッションして、必要があれば土日でも実験することがありました。実験は上手く行かなかった場合に再実験を行うなど、非常に時間がかかることを覚悟した上で臨む必要があります。

宿題/プレゼンテーション:学期を通して4,5個の宿題が課される上に、期末試験として10分-15分のプレゼンテーションが課されます。プレゼンテーションのテーマは先生からリストで与えられ、もし自分がやりたいテーマがなければ先生にテーマを提案することも可能でした。大学院の授業なので一つのクラスは15人〜20人程度であり、自分の同期が大半を占めるので、そこまで緊張することなくプレゼンテーションを行うことが可能でした。この形式の授業の中で中間試験が課されることもありました。

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 授業を選ぶのに自分の周りの状況を確認したほうが無理な戦いに臨まずに済む可能性が高くなります。最初からアメリカのトップ大学卒の学生ばかりがいる授業でグループディスカッションしたり質の高いレポート書いたりプレゼンテーションしたりするのはきつくなる場合もあるので、英語に慣れていないうちは以下に示すように英語スキルにあまり影響されない授業を選んだり、研究との両立スキームを作ったりすると良いと思いました。

留学生比率:留学生比率は工学部が高めになっているところが多いようですが、UCSB College of engineeringでは約50%となっています。私が在籍するMaterials Departmentは約10%と留学生比率が低く、毎年一人か二人程度しか入学していないようです。完全に憶測ではありますが、留学生比率があまり高くない専攻では、英語文章作成スキルやプレゼンテーションスキルがまだ磨かれていない留学初期に要求水準の高いレポートやプレゼンテーションが課される授業を選ぶより、解答に数式が大部分を占めるような授業を最初に選ぶといいかも知れません。

研究と授業:RAとして採用された時期に研究プロジェクトがキックオフされたので、指導教官からのプッシュが非常に強かったです。日本にいた時の研究室は助教の先生から指導を受けていたが、アメリカの大学ではAssistant Professorから独立して研究室を持つので、普段はポスドクから指示が出ていました。私が所属する研究室のPI (Principle Investigator)はDistinguished Professorということもあってかなり忙しく、平日の予定は常に埋まっているので、土曜日、日曜日どちらかはグループで進捗ミーティングが開かれることになっていました。実験装置のメンテナンスでも土日一日中作業することが多かったので、予想よりもコースワークに対応できる時間がかなり少なく、研究と授業のバランスを取るのに大変苦労しました。

 渡米する前まではPhD課程の一、二年目はコースワークに専念し、Qualification試験を通過してPhD Candidateとなってから研究活動を始めると聞いていました。しかし、自分の場合は以前の記事にも書いたようにアメリカ大学院受験:出願から結果通知まで - アメリカ大学院でPhDを目指す、プロジェクトがキックオフされるタイミングで研究グループに入ったので、まだ人手が少なく実験やメンテナンスの負担がとても重い、という問題に直面していました。

 同じ専攻に同期入学した学生は指導教官によってはコースワークに割けることのできる時間はそれぞれ異なります。授業に専念していいよと言われた同期もいれば、最初は授業に出ていたのに研究室の事情で全部の授業をドロップして研究の引継ぎをしないといけない同期もいました。この場合PhDの学生は留学生でも授業をドロップすることは可能です。学部留学の場合は授業をドロップしてしまうと在留資格に必要な単位が足りなくなる場合があるのですが、PhDの学生は研究活動することで単位が与えられるので、ついていけない授業があったり研究が突然忙しくなる場合はドロップして研究の単位で足りない分を補填することも可能です。自分の場合は研究が忙しいのに取捨選択して授業をドロップしたりするなど調整できなかったことが反省点になります。できるだけAを取るようにしたかったのですが、それが叶わなかった授業もありました。

 反省点だらけのPhD一年目となりましたが、授業で取りこぼした分は研究で取り返すしかないと思っています。2019年中は共著論文三本提出し、そのうち一本は受理済みでFeaturedとして取り上げられました。2020年はPhD Candidateになる為のQualification試験が控えていますが、学会発表、原著論文提出できるように励みたく思います。